ムーディは,反知性主義の翼に実利志向のビジネス精神という強力なエンジンを備え付けた人物として記憶される。ホフスタッターの表現では,リバイバリズムが反知性主義の「種を植え付け」,ビジネス的な実用主義がそれを「最先端まで推し進めた」,ということになる。アメリカの反知性主義に特徴的なのは,この宗教的な平等理念と経済的な実用主義との奇妙な結びつきである。
この両者を結びつけたのは,「天はみずから助くる者を助く」という信念であった。「たたき上げ」(self-made)の思想である。目標に向かう強い意志の力を養い,倹約と勤勉と忍耐を続けた人だけが,成功するにふさわしい人格になる。そして,神もまたそのような真面目な努力に祝福を与えるのである。ここには,「敬虔が人格を作る」というプロテスタント的な道徳規範が明確に表現されている。そして,信仰は成功をもたらす。日本でもよく知られているフランクリンの言葉の通り,早寝早起きという徳が人を健康にし金持ちにするのである。
森本あんり (2015). 反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体 新潮社 pp.218
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