実はここにも歴史的な背景がある。それは,政教分離の実質化である。アメリカは憲法文書に政教分離を明記した史上初の世俗国家であるが,その実態は複雑で,各州のレベルや生活実態としてはなかなか分離が進まなかった。連邦憲法をめぐる最高裁の判断が問題になるのは,20世紀もようやく半ばを過ぎてからのことである。その争点はいろいろだが,政教分離がいちばん具体的に見えるのはお金である。教会は,国民の税金によってまかなわれるのではなく,自分たちで集めた献金によって運営されねばならなくなった。
それぞれの宗教団体は,市民の自発的な参加と支援なくては存続できない。だからどの教会も,市場原理による自由競争にさらされ,人を集めなければ解散という憂き目に遭うことになる。どんなに立派な説教を語っても,つまらなければ人は来ない。20世紀はじめの伝統的な教派では「毎日のようにどこかの教会が売りに出され,ガレージとなっている」という嘆きが聞かれたほどである。
森本あんり (2015). 反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体 新潮社 pp.246-247
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