知性が大学や研究所といった本来あるべきところに集約され,それが本来果たすべき機能に専念していると見なされる場合には,反知性主義はさして頭をもたげない。しかし,ひとたびそれらの機関やその構成員が政治権力にお墨付きを与える存在とみなされるようになったり,専門以外の領域でも権威として振る舞うようになったりすると,強い反感を呼び起こす。つまり反知性主義は,知性と権力の固定的な結びつきに対する反感である。知的な特権階級が存在することに対する反感である。微妙な違いではあるが,ハーバード・イェール・プリンストンへの反感ではなく,「ハーバード主義・イェール主義・プリンストン主義」への反感である。特定大学そのものへの反感ではなく,その出身者が固定的に国家などの権力構造を左右する立場にあり続けることに対する反感である。日本なら,ここに「東京大学」などと代入すればわかりやすい。
森本あんり (2015). 反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体 新潮社 pp.262
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