前述のラットの実験と併せて考えると,この結果は子どものとき親から十分な養育を受けることが,ストレスに対する耐性を獲得するうえできわめて重要であることを意味していて,子どもの時期に起きるエピジェネティックな調節は成人期に至るまで影響し,精神病理的な結果(自殺)をも引き起こすと考えられました。さらにこのエピジェネティックな変化は,次の世代にも引き継がれるのです。ただし,動物実験に関するかぎり,前述のように十分な養育をしてやったり,薬物投与によって元にもどすことが可能です。以上から連想することですが,現在,我が国ではいじめが大きな社会問題になっています。いじめの成立にも遺伝子,環境,そしてエピジェネティックスが関わっているはずです。いじめ問題の解決には広汎かつ深い分析が必要で,発達心理学的,また,行動遺伝学的理解も不可欠だと思います。
土屋廣幸 (2015). 性格はどのようにして決まるのか:遺伝子,環境,エピジェネティックス 新曜社 pp.58-59
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