病気についてはどうだろう。ここ数年の間に,100を超す一般的な病気について,関わりのある遺伝子が1000個以上も発見された。失明につながる黄斑変性や,男性を悩ませる若ハゲなどに深く関わっている遺伝子も見つかった(因みにわたしのチームは,ハゲの原因遺伝子の発見に貢献した)。そして今では,どちらの「病気」についても,自分のリスクが高いかどうかを,DNA検査によってかなり正確に予測できるようになったのだ。ほんの数年でずいぶん多くの進歩が成し遂げられた。
しかし,このように数々の成功例がある一方で,これまでのパラダイムが間違っていることを示す兆候が,ぽつぽつと現れてきた。たとえば,一般的な病気の原因遺伝子が次々に発見されたことは生物学的には興味深かったが,研究が進むにつれて,それらの遺伝子の影響はごくわずかだということがわかってきたのだ。肥満について言えば,関係のある遺伝子が30個ほど発見されたが,全部合わせても肥満の原因に占める割合はわずか2パーセントだった。
ティム・スペクター 野中香方子(訳) (2014). 双子の遺伝子:「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける ダイヤモンド社 pp.12-13
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