ビネー式の知能検査(IQテスト)は,20世紀初頭にフランスのアルフレッド・ビネーが開発し,アメリカのルイス・ターマンが改訂して普及させて以来,100年近くにわたって,世界中で広く用いられてきた。双子と養子の研究では,IQには遺伝的要素が強いという,政治的論争を招きそうな結果がはっきり出ているが,IQの価値に疑問を投げかける調査結果も集まりつつある。ある研究でIQテストが実施されている国の10年ごとの結果を見たところ,その平均値は上昇しつづけていた。また,幼い頃にIQテストでトップクラスの成績をあげた人を追跡調査したところ,その大半は,それほど成功しないまま人生を終えていた。さらに悩ましいのは,非常に貧しい児童や恵まれない児童では,IQの遺伝的影響がほとんどゼロになるという結果が出たことだ。
重要なのは,意欲ではないだろうか。最近の研究で2000人の児童について調べたところ,IQテストの高い得点は,意欲の強さと結びついていることが明らかになった。一方,得点が最低レベルだった児童は,意欲も低く,結局,自ら予測した通り,低い点数しか出せなかった。得点の高い児童は,賢い子だと思われたい気持ちが強かっただけなのかもしれない。IQテストは(ある人に言わせれば,人生もそうだが),IQだけでなく,個性と環境のテストと考えていいだろう。
つまり,意欲は,数字として評価されないが,成功するために不可欠な要素なのだ。意欲こそ,天才の鍵となるもの,すなわち,長時間に及ぶ退屈なトレーニングに耐えられる子どもと,気が散ってすぐ投げ出してしまう子どもの違いではないだろうか。強さでも反射神経でも手先の器用さでも絶対音感でもなく,意欲こそが,長く探されていた天才の要素ではないのか。今ではほぼ忘れられているが,35年以上前に,61組の双子の女の子を調べていて,遺伝が意欲に影響していることを明かした研究がある。意欲をもたらす遺伝子を特定することができれば,それこそが天才になるために最も重要な遺伝子と言えそうだ。
ティム・スペクター 野中香方子(訳) (2014). 双子の遺伝子:「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける ダイヤモンド社 pp.94-95
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