わたしはよく,新聞や雑誌の記者から,これまでの双子研究で最も驚くべき発見は何でしたか,と尋ねられる。そんな時すぐ頭に浮かぶのは,「信仰心は遺伝する」という発見だが,多くの人にとってそれは信じがたく思えるようだ。病気や身長や体重が遺伝することは理解できても,信仰が遺伝するというのは理解できないらしい。おそらく,信仰心——あるいはその欠如——が遺伝する,という見方は,あまりにも遺伝を偏重しており,自分の行動は自分で決めているという信念にそぐわないのだろう。それでも科学は,信仰心の強さと精神性(スピリチュアリティ)は,家庭環境や教育のみならず,遺伝の影響も受けている,と語る。アメリカ,オランダ,オーストラリア,イギリスにおける双子研究によって,信仰に40〜50パーセントの遺伝的要素があることが明らかにされたのだ。
なかでも驚かされるのは,宗教も礼拝の仕方も大きく異なるアメリカとイギリスで,信仰心と遺伝とのつながりに関して同じような結果が出たことだ。たとえば最近の研究によると,神の存在を信じている人は,アメリカでは調査対象の61パーセントを占めたが,イギリス人はわずか17パーセントで,3倍以上の開きがあった。逆に,神の存在を信じない人は,イギリスでは18パーセントだったが,アメリカでは3パーセントだった。さらに,日曜に教会へ行くかどうかも異なった。毎週礼拝に参加する人の割合は,アメリカのほうが,イギリスの3倍近く多かった。
なかには,双子の信仰心が似ているのは,文化や家族の影響ではないか,研究の方法がずさんだったのではないか,と疑う人がいるかもしれない。しかし前述のミネソタ双子研究では,シャロンとデビーのように別々の家庭で育てられた数多くの双子の信仰心を調べて,同様の結果を得た。離れ離れに育てられた一卵性双生児でも,信仰心が篤いかどうかはとてもよく似ていたのだ。結論ははっきりしている。信仰心は,明らかに遺伝の影響を受けるのだ。
ティム・スペクター 野中香方子(訳) (2014). 双子の遺伝子:「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける ダイヤモンド社 pp.104-105
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