かつて,科学者たちが「神の遺伝子」を見つけたと発表したことがあった。彼らは,心理テストで判定した信仰心の強さと,遺伝子との相関を解析し,ある神経伝達物質輸送体に関する遺伝子,VMAT2を「神の遺伝子」として同定したのだ。しかし残念ながら,2007年以前の遺伝子分野でなされた多くの「発見」と同じく,後にこれは間違いだったことがわかった。
わたしのグループは,50万個のDNAマーカーによる全ゲノムスキャンを行い,信仰(あるいは不信仰)の原因遺伝子を追跡し,かなり近いところまで絞った。イギリスの双子4000組のゲノムを調べて,15番染色体上の一連のDNAにはっきりとした印を見つけたのだ。それが見つかるのは,100万回に1回程度だった。この印のついた遺伝子を見つけようと,染色体を調べてみて驚いた。その印の近くに遺伝子は存在しなかったのだ。このエリアは,遺伝子学者たちには「遺伝子砂漠」と呼ばれている。なぜなら,タンパク質をコードする遺伝子がほとんど存在せず,無意味なジャンクDNAばかりが並んでいるからだ。だが,不思議なことに,病気と関係のある配列の多く(4つに1つ)は,こうした「遺伝子砂漠」と呼ばれる領域にあるのだ。その理由は,まだわかっていない。
ティム・スペクター 野中香方子(訳) (2014). 双子の遺伝子:「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける ダイヤモンド社 pp.119-120
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