では,虐待された子ども(ある概算によると,子どもの5人に1人は虐待されているそうだ)は皆,問題を抱えた大人になるのだろうか。サイコセラピストは一般にそう考えているようだ。しかし,1997年にフィラデルフィアでリンド博士とトロモヴィッチ博士が行ったアメリカの59大学の調査結果のメタ分析と,人口に基づく7つの研究は,その見方に断固として異を唱える。
博士らは,虐待は避けがたいダメージをもたらすという見方が広く浸透しているが,それは特異な事例に基づくものだ,と結論づけた。そして,一般市民と大学生を調べた結果から,子どもへの性的虐待は必ずしも害を及ぼすわけではなく,それを経験した女性の33パーセントと男性の60パーセントは,「自分は虐待の影響を受けなかった」と述べていることを報告した。奇妙なことに,大学生のごく一部は,そのような接触(おそらく家族による愛撫など)を「好ましい経験だった」と報告しており,精神的ダメージの程度は,子どもがその接触を「合意の上」と見なしているかどうかにかかっていることを裏づけた。
ティム・スペクター 野中香方子(訳) (2014). 双子の遺伝子:「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける ダイヤモンド社 pp.160-161
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