エベルカーリクスの教区で1905年に生まれた303人の成人に注目した研究では,1803年から1849年までの収穫と食料価格から,親と祖父母が入手できた食糧の量を推定した。女の子の卵母細胞(卵子のもと)と,男の子の精祖細胞(精原細胞。精子のもと)は,通常の細胞の半分の染色体(23本)を持ち,それぞれ生殖腺に蓄えられる。エベルカーリクスでの研究は,思春期直前の9歳から12歳まで——それまで陰のう内で守られていた精子が移動しはじめ,そのDNAがエピジェネティックな修飾を受けやすくなる時期——に焦点を当てた。
最初の結果は驚くべきものだった。祖父母が過食したグループは,祖父母が飢饉を経験したグループより,平均で6年早く亡くなっていたのだ。対象の枠を広げ,性別で分けると,相関はいっそう明らかになった。12歳以下で飢饉を経験した男性の息子の息子(孫)の寿命は長く,心臓発作で死亡する確率は低かった。祖父が過食すると,孫は,心臓病で早死するリスクが高まるだけでなく,糖尿病のリスクも4倍高くなった。相関がはっきりと見られたのは男性だが,女性にも同じような相関が見られた。しかしその場合も,同性同士においてだった。女性は祖母の習慣に,男性は祖父の習慣に影響されていたのだ。つまり,飢饉の間に祖父母の卵子や精子に何かが起きると,それは同姓の孫に影響するのである。ブリストルでなされた追跡調査では,166人の父親の早期(11歳以下)の喫煙は,息子の肥満を導いたが,娘には影響しなかった。思春期前の過食も,次世代に同様の有害な影響をもたらした。
ティム・スペクター 野中香方子(訳) (2014). 双子の遺伝子:「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける ダイヤモンド社 pp.189-190
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