2004年以来,ジェネティック・セイビングズ・アンド・クローン社のような企業が,ペットのクローンづくりを試み,数匹のクローン・ネコを作りだした。リトル・ニッキーは,飼い猫をなくしたテキサスの女性のために同社が作った最初のクローン・ネコで,費用は5万ドルだった。バイオアーツ・インターナショナル社は,社長の愛犬ミッシーのクローンづくりに成功した。しかし,商業的な取り組みの大半は,現在ストップしている。それは,失敗する確率が高く,無事誕生しても,早すぎる死や,愛するペットに外見も行動も似ていないことに,依頼主が不満を抱いたからだ。
たとえば,87回の失敗の末に,2002年に誕生した最初のクローン・ネコCC(カーボン紙によるコピーの略)は,白地に灰色の縞模様の斑がある可愛いネコだったが,残念ながら,オリジナルのネコ,レインボーとは少しも似ていなかった。レインボーは,三毛猫だったのだ。三毛猫の茶と黒の色を決める遺伝子は,それぞれX染色体上にある。その発現の仕方がランダムなので,X染色体を2本ずつ持つメスは三毛猫になる(オスはX染色体を1本しか持たないので三毛にはならない)。X染色体が発現するかどうかは,エピジェネティックな作用(刷り込み)によるものなので,クローン——DNAの塩基配列が同一——であっても,模様の出方はそれぞれ異なるのだ。またCCの性格は,レインボーとは非常に異なっていたし,他にも目に見えない違いが数多くあると推測された。
ティム・スペクター 野中香方子(訳) (2014). 双子の遺伝子:「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける ダイヤモンド社 pp.342-343
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