脳に関する誤解はこれだけではない。たいていの人は次の2つのまちがった知識のいずれか,あるいは両方を信じている。その第1は,知覚・記憶・情動などの脳の機能はそれぞれ特定の領域にある(局在している)というもの。そして第2は脳の中に浮かんでいる化学物質が私たちの精神状態を決定するというもの。先の「90パーセント神話」(注:脳のうち10パーセントしか使わないというまちがった知識)と異なり,この2つは部分的には真実ではあるが,適切な前提条件を抜きにしていわれる場合には明らかに誤りだ。少なくとも一般的な意味で,脳の機能のしかたはわかっている。それは脳の組織の島によるものでもなければ,分離された化学物質の単独の働きによるものでもない。ある特定の領域はたしかに重要だ。だが,独自で機能しているわけではない。それらはほかの領域とのシナプス接続によって,機能を果たすのに参加しているのだ。同様に化学物質も重要だが,主として,その化学物質の,機能システム内のシナプスでの作用が重要なのだ。
ジョゼフ・ルドゥー 森 憲作(監訳) (2004). シナプスが人格をつくる:脳細胞から自己の総体へ みすず書房 p.52
(LeDoux, J. (2002). Synaptic Self: How Our Brains Become Who We Are. New York: Viking Penguin.)
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