ともあれ,年齢で発達をあらわすという着想は,まさに天才的であり,生物測定にも精神測定にも,新しい世紀を開いたといってもいい。全体としての精神現象を尺度化するという困難な問題に対して,はじめて解決の見通しをあたえたのだ。
人間は時間という連続量の増加にともなって質的な発達をとげる。その平均的なあり方を目安にして,精神の尺度に,時間の尺度をあてはめる。知能の差は,年齢の差に帰せられる。だから,各年齢の可能性を知りさえすれば,尺度が構成される。
「なぜこんな簡単なことを発見するのに,これほど長い期間かかったのだろうか!」と,アメリカの心理学者L.M.ターマンを嘆かせたほど,単純であるためかえって見逃しやすいことがらなのだ。たしかにこれは,新しい自由な実験的精神をもつビネーにおいてこそ,思いついたことがらだ。彼が同時代の科学的心理学の努力とその欠陥を十分に知りつくしていたと同時に,当時の心理学者に不可欠だとされていた伝統的な哲学的素養を,それほど持ち合わせていなかったことも,この突飛な計画を成功させることに好都合だった。心理学のありきたりの方法や先入観や常識から解放されて,彼はものごとを素朴に,しかも大胆に考えることができた。
滝沢武久 (1971). 知能指数 中央公論社 pp.53-54
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