実をいうと,「精神薄弱」の客観的定義と科学的診断は,今世紀初頭では,きわめてむずかしい課題の1つだった。その定義は,人それぞれによりまちまちだったし,また1人の学者が,その場その場で基準を変えるといったように,安定した正確な基準は,存在していなかった。このとき,ビネーが,年齢尺度という基準を提案したのである。
ビネー・テストでは,知能がその発達により測定され,知能程度は年齢の高低であらわされる。だから,精神薄弱とは,正常児に追いつくことができないくらい発達の遅れている者だ。正常児も精神薄弱児も,同じ梯子をよじ登っていくだが,その速さがちがう。精神薄弱児は,ゆっくりとよじのぼり,途中で止まってしまう子どもである。だから,同じ梯子(共通尺度)の上での現在の位置を知ることにより,精神薄弱児を選別することができるというのである。ここから,のちの心理学者がおこなったような,おくれた子どもの知能と幼い年齢の子どもの知能との同一視が生じる。ビネー以降につくられた大部分の発達テストは,こうした見地に立っているのである。
滝沢武久 (1971). 知能指数 中央公論社 pp.63-64
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