知能指数は,子どもにおいては発達指数であり,おとなにおいては能力の指標だ,と考えられ,しかも,同一の人間は,たえず同じ数字であらわされる知能指数をもちつづけるという仮定のもと,子どもの早熟さを調べることにより,おとなになってからの知的聡明さを予見できると考えられた。こうして,IQという2つのローマ字であらわれれる数字が,変化の背後にある不変な実在をしめす形而上学的魔力をもつに至るのである。
現代の心理学では,IQの不変性については,確率的なものとしてみなしているにすぎない。つまり,早熟な子どもの多くは,聡明なおとなになりうるし,おくれた子どもの多くは,おとなになっても,精神薄弱にとどまる。しかし,これはあくまでも確率的なものであって,実際に個人個人をとりあげてみると,その発達の道筋は,多種多様である。ゆっくりと発達する子どもが,おとなになってからすぐれた知能を発揮することもありうるし,早熟な子が,聡明なおとなになることを約束しない。
滝沢武久 (1971). 知能指数 中央公論社 pp.97
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