スピアマンによれば,一般知能とは,共通な基本的な知能であって,いわば一貫的な精神エネルギーだ。それに対して,特殊知能は,その精神的エネルギーを発現させるエンジンのようなはたらきをする。一般知能は,個人が生まれつき持ち合わせているものであり,外部から変化をうけることはないのに対し,特殊知能は,むしろ教育や訓練により大いに影響されるものである。
そこで彼は,この基本的な一般知能を純粋にとらえることのできるテストを考案する。これが,「相関抽出テスト」とよばれるものだ。
相関抽出テストは,スピアマンの「ノエジェネシス」の理論にもとづいている。ノエジェネシスとは,ギリシア語の「ノウス」(精神,理性,認識)と,「ゲネスレー」(誕生,生成,生産)との複合語であって,「認識の誕生」という意味になるが,彼はとくに,「新しいものを生み出す思考」という意味で用いている。彼によれば,ノエジェネシスは,「自分自身の経験の把握」「関係の抽出」「相関の抽出」という3つの基本原則から成る。関係の抽出とは,たとえば,「ロンドン」と「パリ」という2つの項から,イギリスとフランスという関係がひき出せるように,AとBとが与えられたとき,両者の関係Rを誘導するはたらきだ。一方,相関の抽出とは,たとえば,「イギリスとフランス」という関係と,「ロンドン」という項があたえられたとき,「パリ」という項がひき出せるように,関係Rと項Aから,もう一方の項Bを誘導するはたらきである。
スピアマンにとっては,相関の抽出こそ,知能にとってもっとも本質的なものにほかならなかった。そこで,図形を材料にした相関抽出テストをつくって(というのは,言葉を材料にしたテストでは,経験の影響が介入してしまうからだ),一般知能を測定しようと試みたのである。
すると,一般知能は,まさにビネー・テストで測定された精神年齢に一致していることが,スピアマン自身によって明らかにされた。「ビネーは,知らず知らずのうちに,経験的に因子分析をおこなっていた」と彼はいう。
滝沢武久 (1971). 知能指数 中央公論社 pp.99-100
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