エソロジストが生得性をテストするときの古典的な方法は,ある行動が誕生時もしくは誕生後すぐに存在すること,もっと一般的には,その個体が環境の刺激から学ぶ機会がないうちにその行動が現れることを証明することだった。ところが1950年代にアメリカの動物心理学者ダニエル・ラーマンが,いかに厳密に隔離しても出生前や誕生直後に起こる出来事は避けられないから,個体が遺伝子以外の影響を完全に免れることはありえないという説得力のある主張をした。その結果,エソロジストたちは行動の発達のエピジェネティックな(遺伝子と環境の相互作用による)性格を受け入れて,さまざまな種に特有の行動パターンを解明する努力を重ねるうちに「生得的(innate)」や「本能的(instinctual)」という語を使わなくなり,,「種に典型的な(species-typical)」という語をよく用いるようになった。
ジョゼフ・ルドゥー 森 憲作(監訳) (2004). シナプスが人格をつくる:脳細胞から自己の総体へ みすず書房 pp.123-124
(LeDoux, J. (2002). Synaptic Self: How Our Brains Become Who We Are. New York: Viking Penguin.)
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