ある質問が「的を射ていない」と即断できるということは,同時に「的を射た質問とはなにか」を知っていることを意味します。つまり,「的を射た質問とはなんであるか」がわかっているからこそ,それとの対比で「的を射ていない質問」が定義できるのです。このことを事前におさえているためには,議論が開始される以前に周到な思考上の準備が必要なばかりか,議論になっている内容についての明確な考えを持っている必要があります。そして,そうした準備があるならば,この学生の質問をきっかけにして面白い議論が展開できそうな気がします。
すべての大学教員に議論スキルが欠けているとは思えません。より正確には,議論スキルのない人が,またはそのような認知技能を身につけるためのトレーニングを受けていない人が,または議論を実践していないような人が,大学の教員をしている「場合がある」ということになるのでしょう。
福澤一吉 (2002). 議論のレッスン NHK出版 pp.33-34
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