ここで,ショッピングモールの買い物客に,商品を選んだ理由を尋ねるという簡単な実験を紹介しよう。まず,買物客に四足のストッキングを見せて,いちばん好きな商品を選んでもらう。実は,四足のストッキングはまったく同じ商品だ。実験の結果,選択の鍵となっていたのは,商品の順番だった。ストッキングをどの順番で並べても,いちばん多く選ばれたのは右端の商品(最後に見せられた商品)で,いちばん選ばれなかったのは,左端の商品(最初に見せられた商品)だった。ところが,なぜそれを選んだのかと買物客に聞くと,商品が並ぶ順番のことを理由に挙げた人は一人もいなかった。さらに,選ぶときに商品の順番が気になったかと単刀直入に聞いても,「ほぼ全員が,質問を聞き違えたのか,相手は頭がおかしいのか,という顔で否定した」という。ストッキングの順番が商品を選ぶ決め手だったのに,買物客は,それが自分たちの選択に影響を与えていることに気づかなかった。
ニコラス・エプリー 波多野理彩子(訳) (2015). 人の心は読めるか? 早川書房 pp.61-62
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