要するに,非人間化とは,相手の人間性を認めないことだ。人が非人間的な扱いに抵抗するのは極端なケースが多いので,そこまで頻繁に起きている現象ではないと思えるかもしれない。だが,実際はそうではない。相手を心のない存在として扱うケースは,目立たないかもしれないがあちこちで見られる。あなたの家の冷蔵庫にも,その名残が入っているかもしれない。フランス人がイギリス人向けにシャンパンを作りはじめたとき,シャンパンの製造業者は,イギリス人がフランス人よりはるかに辛口を好むことを知った。だが,フランス人にとって,イギリス人が好きな味はおいしくなかった。そこで,彼らには粗野に思えたイギリス人をからかって,イギリス人向けのシャンパンを「ブリュット・ソバージュ(野蛮な辛口)」と呼んだ。この冗談は,フランス人にしっぺ返しを食らわせることになる。今や「ブリュット」は世界でもっとも人気のある種類だからだ。
ニコラス・エプリー 波多野理彩子(訳) (2015). 人の心は読めるか? 早川書房 pp.75-76
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