「ヘイトスピーチとは,人種,民族,国籍,性などのマイノリティに対して向けられる差別的な攻撃を指す」
これが師岡の見解だ。私もそれに倣いたい。
自身の努力だけでは変更することのできない,けっして抗弁することができない属性や,性的マイノリティに対し,差別に基づいた扇動・攻撃を加える行為そのものが,ヘイトスピーチと位置付けられる。しかもそれらの攻撃は社会的な力関係を背景におこなわれる。
また,人種差別研究で知られるハワイ大学のマリ・マツダ教授は,ヘイトスピーチは「マイノリティに対して恐怖,過度の精神緊張,精神疾患,自死にまで至る精神的な症状と感情的な苦痛をもたらす」としたうえで,その定義を以下の3点に簡潔にまとめている。
(1)人種的劣等性を主張するメッセージであること
(2)歴史的に抑圧されてきたグループに向けられたメッセージであること
(3)メッセージの内容が迫害的で,敵意を有し相手を格下げするものであること
要するに,ヘイトスピーチは単なる不快語や罵詈雑言とは違うということだ。
この点は世間にはまだ正確に伝わっていない。「言葉遣いが汚い」ということだけで「ヘイト」だとする風潮の方が,日常社会やネット言論の世界では一般的だ。
安田浩一 (2015). ヘイトスピーチ:「愛国者」たちの憎悪と暴力 文藝春秋 pp.77-78
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