私たち人間は,自然を操作していると思い込みがちだ。だが,実は操作をしているのは人間の側だけではない。私は,人間とミツバチの協力関係を,共進化の典型的な例とみている。蜂だって,少なくとも私たちと同じぐらいの恩恵はこうむってきているのだ。17世紀のイギリスの作家ジョナサン・スウィフトが言うように,「(蜂蜜の)甘さと(蜂ろうで作ったろうそくの)光というもっとも崇高な2つのものを人類にもたらすことにより」,蜂は私たちを夢中にさせて,彼らの遺伝子を地球全体にばらまかせた。それもあっという間に。花との間に「受粉対花蜜」の取引を成立させるには数百万年を要したのに,少量の甘味を餌に,人間に大変な思いをさせて巣箱を作らせ,それを方々に運ばせるには,たった数千年しかかからなかったのだから。
もちろん,人間はこの協力関係を意識していても,蜂にその意識はない,という議論もあるだろう。だが,進化は,それに関わるものの意識や意図など一切おかまいなしだ。結果だけがものをいう。おして,結果ははっきりしている。ミツバチは,人間の力を借りて,世界を征服したのだ。
ローワン・ジェイコブセン 中里京子(訳) (2009). ハチはなぜ大量死したのか 文藝春秋 pp.48-51.
(Jacobsen, R. (2008). Fruitless Fall: The Collapse of the Honeybee and the Coming Agricultural Crisis. New York: Bloomsbury USA.)
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