一方,IARCは,
「ある特定の物質が人体に対して発がん性を示すかどうか?」という問いに対する,間接的というよりもむしろ直接的な答えは,疫学的方法を使った人体に関する研究からのみ得られ,疫学は,症例報告,もしくは統計を使った探索的な研究結果や動物実験結果に動機づけて行われる」
と,すでに1990年にはっきりと述べている。つまりIARCは,疫学を直接的,動物実験を間接的であると言っているのだ。この考え方は,人における発がん物質の分類をIARCが1960年代末に始めて以来の一貫した考え方である。IARCで評価される疫学研究は,観察研究が大部分を占める。
多くの日本の医師や研究者が考える「直接的」と「間接的」が,IARCでは入れ替わっており,何を直接証拠と考えるかについて真逆であると言ってよい。日本の研究者は操作性を「直接」とし,IARCは対象を「直接」と言っているとも解釈できる。もちろん科学的証拠であることに直接関連するのは,後者の「直接」である。
津田敏秀 (2011). 医学と仮説:原因と結果の科学を考える 岩波書店 pp.15-16
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