カリブ海で以前に行なった研究から,進んで欲求充足を先延ばしにするための要因として信頼が重要であることがわかっていた。報酬を与えるという約束をする人を子どもたちが確実に信頼するように,気楽に接することができるまで,まず研究者と遊んでもらった。それから子どもたちに1人ずつ,ベルの載った小さなテーブルについてもらった。信頼感をさらに高めるために,研究者は繰り返し部屋から出て,子どもがベルを鳴らすとすぐに戻ってきて,「ほら,呼んだから戻ってきましたよ!」と大きな声で言った。呼ばれるとただちに研究者が戻ってくることを子どもたちが理解したらすぐ,自制のテスト(子どもたちには,これも「ゲーム」と説明してあった)が始まった。
研究方法はごく単純にしておいたが,私たちは信じられないほど長たらしい学術名称をつけた。すなわち,「先延ばしされたものの,より価値のある報酬のために,未就学児が自らに課した,即時の欲求充足の先延ばしパラダイム」だ。幸い数十年後,コラムニストのデイヴィッド・ブルックスがこの研究を発見し,「マシュマロと公共政策」という題で《ニューヨーク・タイムズ》紙で取り上げると,マスメディアは「マシュマロ・テスト」と名づけてくれた。そして,この呼び名が定着した。ご褒美としてマシュマロを使わないことがよくあったのだけれど。
ウォルター・ミシェル 柴田裕之(訳) (2015). マシュマロ・テスト:成功する子・しない子 早川書房 pp.26
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