半世紀以上前,カナダの認知心理学者ダニエル・バーラインは,あらゆる刺激が持っている,相反する2つの面を指摘した。まず,魅力的で欲求をそそる刺激には,人を夢中にさせ,興奮させ,動機づける特質がある。だからあなたはマシュマロが食べたくなり,食べれば快感が得られる。一方,刺激からは認知的に捉えられる,非情動的な特徴についての情報を与える,叙述的な手掛かりも得られる——マシュマロは白くて丸く,ずんぐりしていて柔らかく,食べられる,というような。だから刺激が私たちに与える影響は,その刺激を私たちが頭のなかでどのように表象する(思い描く)か次第で違ってくる。人を興奮させるような表象は,動機づけを与えるホットな刺激の特性に焦点を当てる。マシュマロの,もっちりした食感や甘さという特性や,喫煙中毒者にとっては,吸い込んだタバコの煙の味わいといった特性だ。このホットなフォーカスは,マシュマロを食べる,タバコを吸うといった,衝動的な反応を自動的に引き起こす。それとは対照的に,クールな表象は,刺激のもっと抽象的で,認知にかかわる,情報提供元としての側面に焦点を当て(マシュマロは白くて丸く,小さくて柔らかい),刺激の魅力を強めたりすることなく,それがどのようなものかを教えてくれる。あなたはそのおかげで,その刺激に飛びつく代わりに,「クールに考える」ことができる。
ウォルター・ミシェル 柴田裕之(訳) (2015). マシュマロ・テスト:成功する子・しない子 早川書房 pp.43-44
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