研究者たちは双子研究を使って,生まれと育ちが分離できるかのように,それぞれの別個の貢献度を割り出そうとしてきた。彼らの先駆的研究には感謝すべきだろう。そのおかげで,私たちは生物学的作用に基づく生き物で,あらかじめ多くのものが組み込まれており,育ちに劣らず生まれも重要であることが明らかになったからだ。だが,遺伝についての研究が深まるにつれ,生まれと育ちとを簡単に分離できないことがわかってきた。特徴や人格,態度,政治信条など,人間の気質や行動のパターンは,一生にわたって環境要因によって発現の仕方が決まる遺伝子(たいていは複数の遺伝子)の複雑な作用を反映している。私たちが何者で,何者になるかは,途方もなく複雑なプロセスの中で遺伝子の影響と環境の影響の両方が行なう相互作用の表われなのだ。「どれだけ?」という問いは,もういい加減,お蔵入りさせるべきだろう。なぜなら,単純に答えられないのだから。カナダの心理学者ドナルド・ヘッブがとうの昔に述べているように,それは,長方形の大きさを決めているのは縦の辺の長さと横の辺の長さのどちらかを問うようなものだ。
ウォルター・ミシェル 柴田裕之(訳) (2015). マシュマロ・テスト:成功する子・しない子 早川書房 pp.98
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