まず,ホットシステムは,もっと評価されてしかるべきだ。私たちはほっとシステムに耳を傾け,それから学ばなければいけない。ほっとシステムは,人生を送り甲斐のあるものにする情動や熱意を与えてくれるし,いつもではないものの,役に立つ自動的な判断や意思決定を可能にしてくれる。だが,このシステムにも難点はある。ホットシステムは,直観的には正しく思える判断を苦もなくたちまち下すのだが,その判断は完全に間違っていることが多い。衝突を避けるのに間に合うようにブレーキを踏んだり,知覚で銃声がしたときに身を守るために屈み込んだりさせて,あなたの命を救うこともありうるとはいえ,あなたを厄介な状況に陥れる場合もある。暗い路地で,本当は無実でありながら怪しげに見える人物に向かって,警察官に早まって銃の引き金を引かせたり,愛し合っているカップルを,嫉妬と不信で引き裂いたり,自信過剰の成功者を,衝動的な欲求や,恐れに駆り立てられた意思決定で破綻させたりしうるのだ。ホットシステムは,抗い難い誘惑を本人の目の前にぶら下げたり,あまりに生々しい恐れを生み出したり,ほんのわずかな情報から固定観念を抱かせたり,あわてて結論や判断を下させたりといった,度を越す働きによって,健康や富や幸せの敵となりかねない。
ウォルター・ミシェル 柴田裕之(訳) (2015). マシュマロ・テスト:成功する子・しない子 早川書房 pp.110
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