18世紀の菌類学者ウィリアム・ディライル・ヘイは,同僚のイギリス人が病的なまでの“キノコ嫌い fungiphobia”であり,実際に食用できるかどうかにかかわらず,ほとんどのキノコを“毒キノコ toadstool”と考えているようだと述べている。有名な民間キノコ研究家のR・ゴードン・ワッソン(1898〜1986)は,菌類が好きな文化と菌類が嫌いな文化を記述するために,ヘイの用語をもじって“菌類好き mycophilic”と“菌類嫌い mychophobic”という用語を考えだした。このふたつの用語は,現代の菌類学(菌類を研究対象とする生物学の一分科)の文献でよく使われている。西洋では,長年にわたって二元論的な考え方が幅を利かせてきた。菌類好き(キノコ好き)と菌類嫌い(キノコ嫌い)という二分法である。一方,東洋では,昔から菌類好きというレンズをとおしてキノコを認識する傾向があった。
シンシア・D・バーテルセン 関根光宏(訳) キノコの歴史 原書房 pp.10
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