持つ者と持たざる者とのあいだの,認知的スキルおよび非認知的スキルの格差は,ごく幼いころに発生し,年少期の逆境に根源をたどれる部分があり,現在ではそうした環境で育つ子供の割合が増えつつある。子供がどれほどの逆境に置かれているかは世帯所得や両親の学歴といった昔ながらの物差しではなく,子育ての質によって測られる。ただし,それらの昔ながらの物差しは,子育ての質と相関関係にあるのだ。相関関係を因果関係と混同しないことが重要だ。家族にもっと金を与えることは,恵まれない子供の環境の質を向上させることと同義ではない。「貧困との闘い」を求める声が多いけれど,われわれはかつての失敗をくりかえすべきではない。たんに貧困家庭に金を与えるだけでは,世代間の社会的流動性を促進できない。クリントン政権を1996年の福祉政策改革へと導いたのは,そうした考えだった。貴重なのは金ではなく,愛情と子育ての力なのだ。
ジェームズ・J・ヘックマン 古草秀子(訳) (2015). 幼児教育の経済学 東洋経済新報社 pp.41-42
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