これらの点を更に明らかにするための例を知能検査にとって,それが何を検査する検査であるか考えてみよう。私たちはいろいろな形で人間の頭のよし悪しを評価している。これらいろいろな形で測られた知的諸能力の共通のおおもとの変数が知能とよばれる因子である。この事情は性格検査,人格検査,適性検査も同じであって,私たちの言葉でいえば,諸検査はすべて,知能とか性格とか適性とかいう<媒介変数>のテストである。人間をテストしているようにみえて実は個々人の問題ではなく,知能,性格等の媒介変数がテストされている。必要なのは,知りたいのは,何某という人間ではなくて,能力であり,特性であり,それのおおもとであると考えている想定的因子なのである。したがってこういってもいい。検査者は人間を評価しているのではなくてテスト結果について解答しただけである。
しかしてすとの成績表は,媒介変数という見えない相手の首にさげられるのでなくて,現実のその人の何等かの記録に載せられ,その人の背番号になる。背番号とはその人の記録に載せられることである。見えない背中に貼られて生涯その人についてまわるのである。
日本臨床心理学会(編) (1979). 心理テスト・その虚構と現実 現代書館 pp.144-145
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