しかし心理学を自然科学と並べてみて直ぐ目につく低さ,浅さ,安っぽさは,どうしようもないのでして,このひけ目を補償するために,上からお声がかかるとすぐ尻尾を振って乗って行ったものです。私(または私たち)のこの心理学者的軽佻性は,戦後もずっとつづいて,その後の<新進>のお手本に成ったようです。もろもろの官庁の委員会・審議会,大企業・大会社,その他各種の研修機関に招かれて,あらゆる問題について,さっと解説し解答する習慣です。戦後は<学識経験者>の委員会がふえましたし,日本の産業界は戦後ゼロから出発するために勤労意欲の向上や志気の問題や人間関係論やそして更に大衆心理とかの知識を私たちに求めてきました。そんな風にして同僚は浅間山荘にまで出張することに成るのでした。私たちはこうした大学生活に安住し,極力,人びとの生活や歴史の流れに触れないようにつとめてきました。日本の心理学世界には紳士協定とでもいうべき目にみえないおきてがあります。同業の著作や行為やについて決して批判的発言をしないこと。社会問題に一切関わりをもたぬこと。心理学の中に社会問題や人間関係を引き入れたり科学者の枠から出て,これらの問題につき発言しないこと。これは学会の体質ですし大学の体質であると思います。
日本臨床心理学会(編) (1979). 心理テスト・その虚構と現実 現代書館 pp.155
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