研究至上主義の中で,被験者を研究に奉仕する「モルモット」として位置づけて,しかも,「科学の進歩=人類の幸福」といった,タコツボ的ヒューマニズムに支えられた科学論が肯定的に存在していたためとも思われる。また,業績中心主義の中で己の上昇志向に夢中で,業績に奉仕する「モルモット」の立場までは考えてあげられなかったためとも思われる。
さらには,現代の心理学は「心」の問題の科学性・客観性を自然科学的方法論である数量化の中に求める傾向が強かったのであるが,被験者の「心」の諸現象を,この方法論の中で抽象化することに夢中であったためとも思われる。つまり,その「心」に関する諸現象の内容,意味を質的に受けとめ,それ自体において検討することをしないで,ただそれらを(主として数量化過程を経て)心理学的枠組に収斂させ,かつ抽象化してしまう癖のためともいえよう。
日本臨床心理学会(編) (1979). 心理テスト・その虚構と現実 現代書館 pp.185
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