ヴィゴーツキーによる,学校教育での子どもの科学的概念の発達と教授との関係の捉え方
従来の考えを2つにまとめている
1.科学概念は大人(教師)の思考領域から子どもへと既成の形で受け取られ,したがって,子どもにおけるそれ自身の内面的歴史(内面的発達過程)を持たないというもの。それゆえに,子どもの科学的概念の発達という問題は,科学的知識の教授とその直接的な習得という問題に還元される。ここでは,科学的概念は教師の口から子どもの頭へと直接伝えられるのであり,子どもにおけるその独自の発達過程は問題にされない。
2.子どもにおける概念の発達の独自の内面的歴史は認めているのだが,そこで研究されてきたのは,もっぱら自然発生的な生活的概念であり,その知見がそのまま科学的概念の発達にも当てはまるというもの。したがって,科学的概念の発達は独自の問題とはされず,生活的概念の発達と本質的に違いはないとされるのである。その当然の帰結として,ここでは,科学的知識の教授ということ自体が問題とならないし,科学的概念の発達ということ自体が,子どもの発達にとって重要な位置を与えられないのである。ピアジェの考えがこれに該当する。
ヴィゴーツキーの考え
1.科学的概念は子どもに覚えられるものではなく,暗記されるものでもなく,記憶によってとらえられるものでもないと指摘し,科学的概念は既成の形で子どもに直接的に習得させることはできない。科学的知識の教授により,子どもには科学的概念の発達が終わるのではなく,まさにそこから始まるのだ。
2.科学的概念は日常生活の中で自然発生的に子どもに発達する生活的概念と同じようには決して発達しないし,生活的概念の発達は科学的概念の発達について何も説明できない。つまり,科学的概念の発達は子どもに自然発生的に生ずるものではなく,体系的な科学的知識の教授との関係を抜きにはあり得ない。
中村和夫 (2004). ヴィゴーツキー心理学完全読本 新読書社 p.21-22
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