ウエブスターはテクノロジーそのものを毛嫌いしているわけではない。科学的な方法が多くの進歩をもたらしたことも理解している。けれども,それが常に最良のアプローチであるとは限らないことも知っている。比較試験では,1種類か2種類の要因を研究することしかできない。そのため,科学的な調査では問題を最小単位にまで分類してから,1度に1つずつとりあげて,その要因をどうしたら操作できるか探ろうとする。その成果は小さなブロックに分けられた細切れの知識だ。
けれども,無数の要因とフィードバックループを持つ複雑なシステムに関しては,科学的調査は白旗を掲げて降参するべきだ。人間の栄養についてあれだけの関心が寄せられているのに,今でも基礎的な進歩しか遂げられていないし,天気予報も,いつまでたっても不確実だ。科学の目標は,システムを操作したり制御したりするために,あることが機能する理由を解明することにある。私たち人間は,何かを知り,それを制御することにこだわり,世の中と直感的に結びつくことを軽んじる。けれども,システムと調和して生きるには,そのシステムを征服する必要などないこともあるのだ。
ローワン・ジェイコブセン 中里京子(訳) (2009). ハチはなぜ大量死したのか 文藝春秋 pp.227-228.
(Jacobsen, R. (2008). Fruitless Fall: The Collapse of the Honeybee and the Coming Agricultural Crisis. New York: Bloomsbury USA.)
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