こうした大学の心理学研究室との関係がもっとも緊密であったものの1つに海軍がある。ここでも初めは,松本と田中寛一が顧問となり,指導を行なった。後には,田中と増田惟茂が嘱託となり研究を続け,東京に海軍技術研究所が設けられてからは,そこの一部門を心理学者が占めるようになった。海軍で当初要求されたのは,軍隊内における特殊な作業にいかにして実験心理学を応用すべきかということ,それに兵員などの適性選抜及び配置に関する研究であった。海軍は心理学的研究に対し,陸軍よりも熱心であったが,これは海軍の方がそれだけ専門分化が進み,技術的水準も高いものが要求されたということも一因であったろう。陸軍においても,航空関係やその他の専門性の高い部門で,心理学的実験の試みが盛んであったことも,そのことを裏書きしているようである。
海軍の中でも,少佐安藤謐次郎は兵員及び工蔽工員に対する適材選抜を目的とするテストを作成し実施した。これは,いわゆる一般職業適性検査ではないが,特殊職業適性テストとしては初めてのものとされている。
また淡路円次郎も海軍少年航空兵選抜のためのテストを作成したり,飛行機の操縦及び探索員の適性に関する研究を行なったりしている。
陸軍においては,航空関係で隊員の選抜に精神検査及び実験的測定を行なっている。また軍医学校及び陸軍自動車学校では兵員の選抜や軍事的作業の練習に心理学を応用している。また,師団単位で兵員約4千人について,軍隊検査を施行し,入隊前の職業や教育程度と知能との相関関係について研究している。
日本臨床心理学会(編) (1979). 心理テスト・その虚構と現実 現代書館 pp.300-301
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