私たちが学生の頃(昭和30年代の後半),友人とよく話した話題の1つは「心理学は科学であるか?」あるいは「心理学は将来生き残れるか?」というものであった。心理学の「科学性」(その時,私たちもまた自然科学を念頭に置いていたと思う)はおおいに疑わしかったし,対象領域も生理学や数学などの隣接(?)科学によって吸収されつつあるという感じもあったのである。また,実学としてもたよりないようにみえた。だから,会話は,「残るとしたら,知能テストくらいのものだな」と半分自嘲的に言って終わることが多かった,と思う。そして同時にその頃私たちは,心理学の専門家(アカデミックな心理学者)になるためには,何か技術を身につけなければいけないと感じていた。そうした技術とは,(1)電気生理学,(2)情報解析,(3)心理診断法,の3つのどれかであった。
(1)は脳波計に,(2)はコンピュータに,(3)ロールシャッハ・テストやTATに象徴されていたものである。それはとりもなおさず,生理心理学,計量(数理)心理学,臨床心理学という“将来性のある”専門領域における中心的な技術であった。
日本臨床心理学会(編) (1979). 心理テスト・その虚構と現実 現代書館 pp.359
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