最後に,現在のテスト研究者の,テストに対する意識と態度の典型を便宜的に4つに分類してみよう。分類そのものに意味はないにしても,テストをめぐる議論の争点がある程度明確になると思われるからである。第1はテストの無条件肯定派ともいうべきものである。心理学者は心理テストを通じて社会に貢献しうると信じて疑わず,もっぱら技術的改善にのみ専心している。したがって(3)でふれたいわゆる心理技術者たちも当然このカテゴリーに入ることになるだろう。第2は良心的改良派ともいうべきもので,現在の心理テストの状況が理想的なものとみなしているわけではないが,それは努力によって改善しうるとして,テストの本質そのものを否定するわけではない。心理テストの規制や規範作りにも熱心である。いわゆるリベラルな人たちだが,しばしば現実認識が甘く,楽観的すぎる。したがって,結果的には第1のタイプとはっきり区別することが出来なくなってしまう。第3は条件付肯定派と言ってよいだろうか。現行のテストの弊害は当然認めるが,心理テストをすべて否定するのではなく,精神発達の段階を測定する技術として一定の評価をするという立場である。いわば集団における個人の相対的位置づけではなく,個人の変化そのものを測定しようということである。第4に,懐疑的否定派が存在する。心理テストの存在を社会的連関において捉えようとする場合,その管理的,抑圧的本質を意識せずにはいられないとする。また,社会的に中立な心理的技術など信じようとしない。私自身は第3の立場に関心を持ちつつも,現状ではこの第4の立場に組せざるを得ないと思っている。
日本臨床心理学会(編) (1979). 心理テスト・その虚構と現実 現代書館 pp.365-366
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