子どもの学力には,遺伝や家庭の資源など,さまざまな要因が影響しています。しかし,なぜか人々は,学力というと,すぐに教員や指導法,教材などが強く影響していると考えてしまうようです。このため,もし今,学校別の順位が発表されて,A校は1位,B校は20位であるということがわかると,多くの人は,「A校は優れた教育をしているが,B校はそうではない」と短絡的に考えてしまうおそれがあります。
しかし,もしかするとA校には,もともと教育熱心な家庭出身の学力の高い子どもたちが通っており,B校にはあまり教育熱心でない家庭出身の学力が低い子どもたちが通っているだけかもしれません。その場合,A校の先生たちはあまり苦労もせずにうまく学級運営ができていて,一方,B校の先生たちは,もともと家庭の資源が不足している子どもたちに対して,なんとか彼らの注意を引きつけ,勉強の大切さを言い聞かせて,必死に学力の底上げを図ろうと奮闘している,という可能性も十分にあり得るのです。
中室牧子 (2015). 「学力」の経済学 ディスカヴァー・トゥエンティワン pp.123-124
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