まったく同一の遺伝的設計図から2人の人間が発生してくる場合でも,その道筋は,まったく同じというわけではない。とりわけ,すべての行動の中枢である神経系の場合,脳や末梢神経の各部分の発生のしかたはある程度ランダムである。胚や胎児の時期に,新たに形成された神経細胞は,その周囲に向かって神経繊維をどんどん伸ばしてゆくが,この伸ばし方がかなりランダムなのである。これらがほかの神経細胞や近接する筋細胞との間に連絡を形成するかどうかは,ある程度偶然に左右される。神経細胞は,連絡を作ることができなければ死んでゆき,いったん連絡を作ってしまうと,基本的には生きているかぎり,それを維持する。しかし,遺伝的に同一の双生児でさえ,少し違った神経細胞の連絡のパターンを発展させ,こうした違いも,彼らの間の差異の一因になる。一卵性双生児の脳の詳細な分析から明らかにされているのは,神経解剖学的には小さな違いがあり,この違いが重要かもしれない,ということだ。
ウィリアム・R・クラーク&マイケル・グルンスタイン 鈴木光太郎(訳) 遺伝子は私たちをどこまで支配しているか DNAから心の謎を解く 新曜社 pp.8-9
(Clark, W. R. & Grunstein, M. (2000). Are We Hardwired?: The Role of Genes in Human Behavior. New York: Oxford University Press.)
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