私が世界銀行に勤務しているとき,南アフリカ政府の関係者にインタビューをする機会がありました。南アフリカは,労働力調査や家計調査などの政府統計の個票データをインターネット上で世界中のすべての人に公開しています。この理由について尋ねたところ,「データを開示すれば,政府がわざわざ雇用しなくても,世界中の優秀なエコノミストがこぞって分析をしてくれる」という答えが返ってきました。
なんというクレバーな方法でしょうか。研究者は,常に「Publish or Perish(出版化,消滅か)」という強いプレッシャーに晒されていますから,情報量が多く,代表性のあるデータであれば,多くの研究者はそのデータを分析して,論文を書きたいと思うでしょう。南アフリカ政府は,その研究者の性質をうまく利用しているのです。実際に南アフリカ経済に関する研究はデータを公開するようになってから,急速に進みつつあります。
中室牧子 (2015). 「学力」の経済学 ディスカヴァー・トゥエンティワン pp.139
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