自制心が消耗しているとき,それをできるだけ使わずに問題に対処する,いくつかの方法があります。1番目は,いったん動き始めた物体はそのまま動き続けようとするという,物理学の法則に似た原則を利用するものです。人間の行動にも,この「慣性の法則」は当てはまります。いったん始めた行動をやめるには,自制心が必要になるのです。継続時間が長くなるほど,行動はやめにくくなります。たとえば,ポテトチップスを1口食べて残りを我慢するより,まったく手をつけないほうが我慢しやすいはずです。“始める前にやめる”——つまり,初めから手を出さないことが,自制心を節約するための1つの効果的な方法です。
2番目は,「なぜ」という理由を考えること(長期的な目標,価値,理想への着目)と,自己監視をすること(目標と実際の進捗との比較)です。これらも,衝動に打ち勝つ優れた方法です。わたしも,冷蔵庫のなかのパイの誘惑に負けそうになるときには,スリムジーンズを着こなすという目標を強く思い浮かべます。食事を始める前に体重計に乗るのも食べすぎないための効果的な方法です。
3番目は,自制心が多く求められる目標を同時に2つ以上,追い求めようとしないことです。誰であれ,自制心には限界があります。一度に多くの負荷をかけると,問題が生じやすくなります。たとえば,禁煙中の人が,禁煙によってしばしば見られる体重増加を防ごうとして同時にダイエットにも取り組み始めると,禁煙とダイエットの両方に失敗してしまう確率が,それぞれを個別に行うときよりも高まることを示す研究結果があります。
4番目は,証明型の思考や目標設定の活用です。適切な報酬を設定することで,動機づけが高まり,枯渇した自制心を補える場合があります。金銭的な報酬を活用するのも効果的です。お金以外にも,取り組んでいる行動から何かを学べると実感できることや,自分の行動が他人に役に立っていると知らされることなども,大きな効果があるとわかっています。
ハイディ・グラント・ハルバーソン 児島 修(訳) (2013). やってのける:意志力を使わずに自分を動かす 大和書房 pp.205-207
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