教員が生徒に求める理想像は,大きく3つに分けられる。
1つは,人格・思想焦点型理想像である。「優しい人になってほしい」「他社と協調できる人間になってほしい」「何事にも諦めない心を身に付けてほしい」「質実剛健の精神」といったものである。
もう1つは,経済的価値向上・知識技能獲得焦点型理想像である。
「卒業後,自律的な経済活動が行える人間になってほしい」「誰にも負けない何かを身に付けてほしい」「日本社会の発展に寄与する人材になってほしい」「グローバル人材になってほしい」「読み書き算盤ができるようになってほしい」というものである。
最後は,学問的魅力焦点型理想像である。
「英語を好きになってほしい」「数学の美しさを知ってほしい」「芸術的に豊かな感受性を身に付けてほしい」というものである。
この3つは,完全に分けて語れるものではない。それぞれの間に,「リーダーになれる人になってほしい」とか「他人に勇気を与えることのできる存在になってほしい」「良妻賢母」といったものが位置し,グラデーションのようになっている。
しかし残念ながら,このような教育理念をきちんと持っている教員は多くない。
「あなたは教員として,どのような生徒を育てたいですか?」と聞かれれば,元“優等生”教員たちは模範解答をするだろう。しかし,その言葉に熟慮はなく,多くの場合,言葉の意味についても考えられていない。当然,彼らが実践している教育活動にも繋がっていないし,行動に表れてくるはずもない。
林 純次 (2015). 残念な教員:学校教育の失敗学 光文社 pp.64-65
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