もちろん,私たちは何もわからないとは思いたくない。社会心理学者のエリオット・アロンソンは,人間はものごとを合理的に説明できるほど合理的にできていないと述べた。だから私たちは理由をほしがる。世の中のあらゆることがなぜそうなるかを知りたがる。レゴが壁にぶちあたり,WHスミスが苦境に陥り,ウォルマートが大成功をおさめたその理由は正確にはわからないかもしれないが,わかった気になりたいのだ。なるほどと思える理由があれば,あの企業は基軸からはずれたとかさまよったといえる。株式市場を例にとってもいい。株価はぐんぐん上昇したかと思うと,翌日にはわずかに下落するといった具合に,日々変動する。まるで花粉が液体や気体の分子に衝突して不規則に動くブラウン運動のようだ。だが,今日の株価の動きはでたらめだというのでは,私たちは納得できない。ビジネス専門番組にチャンネルを合わせると,キャスターが刻々と数字の変わる株価表示を見ながら,「製造業受注額の増加により投資家が積極的に買いに出て,ダウ平均はわずかに上昇しています」とか「投資家が利益を確保したため,ダウ平均は1パーセントポイント下げました」とか「政府の金利政策に対する投資家の懸念が弱まり,ダウ平均はわずかながら上げています」などと解説している。キャスターは黙っているわけにはいかない。カメラを見つめ,ダウ平均が0.5パーセント下がったのはブラウン運動のせいだというわけにはいかないのである。
フィル・ローゼンツワイグ 桃井緑美子(訳) (2008). なぜビジネス書は間違うのか:ハロー効果という妄想 日経BP社 pp.32-33
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