レポートとストーリーの違いをはっきりさせておこう。レポートとは,何よりも事実を伝えることであり,作意や解釈が紛れこんでいてはならない。レゴとWHスミスについての記事がレポートだとすれば,はずれているとかさまよっているといった表現には問題がある。他方,ストーリーは人々が自分の生活や経験の意味を理解するための手段だ。よいストーリーの条件は,事実に忠実であることではない。それよりも,ものごとが納得いくように説明されていることが重要なのである。レゴとWHスミスのニュース記事は,ストーリーとしてなら立派に役割を果たしている。わずか数パラグラフの記事で,何が問題になっているかがわかり(売上と利益が落ちこんだ),原因がもっともらしく説明され(進むべき方向を見誤った),教訓も得られる(道をはずれず,基軸産業に集中するべし)。明快な結論で締めくくられている。後にもやもやも残らず,読者は気持ちよく読み終えられる。
ストーリーがいけないのではない。ストーリーだとわかって読むならかまわない。ところが油断ならないことに,科学の仮面を被ったストーリーが知らぬ間にはびこっている。いかにも科学です,という顔をしているが,そこには真の科学の厳密さもない。エセ科学なのだ。
フィル・ローゼンツワイグ 桃井緑美子(訳) (2008). なぜビジネス書は間違うのか:ハロー効果という妄想 日経BP社 pp.38-39
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