因果関係をより性格に説明したいなら,複数回にわたって異なる時期にデータを収集すれば,1つの変数がその後の結果にあたえた影響をもっと明確に分離できる。これは縦断的手法と呼ばれ,実行するには時間と経費がもっと必要だが,単純な相関関係から誤った結論を導いてしまうおそれは小さくなる。この方法なら,たとえばある時期にコンサルティング会社の指導を受けた企業の業績がそれ以降に向上したかどうかがわかる。先ごろ,メリーランド大学のベンジャミン・シュナイダーのグループがこの縦断的手法を用いて社員の満足度と企業パフォーマンスの関係を調査し,原因と結果を確かめようとした。データは数年にわたるものなので,満足度と業績の変化が観察できた。はたして結果は?資本利益率と1株あたり利益で見た財務実績が社員の満足にあたえた影響は,その逆よりも大きかった。どうやら勝ち組であることが社員の満足度を高める大きな要因になるのであって,社員が満足していても,企業パフォーマンスにそこまでの影響はあたえないようだ。シュナイダーらは,どのように壁を破って原因と結果を解明できたのだろう?長期にわたってデータを収集したのだ。1時点のデータで因果関係を推測するのははるかに楽だが,手に入るのは妄想なのである。
フィル・ローゼンツワイグ 桃井緑美子(訳) (2008). なぜビジネス書は間違うのか:ハロー効果という妄想 日経BP社 pp.125
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