体というものは普通,何年もかけて大人の大きさに成長していく。だが枝角は,個体の大きさにかかわらず,全く何もない状態から最大サイズになるまでに,ほんの数か月しかかからない。どんな動物のどんな骨よりも速く成長する。そのため,エネルギーコストもそれだけ多くかかる。近縁種のダマジカの場合,枝角が成長している間は,通常の二倍以上のエネルギーが必要になると推測されている。さらに,枝角を成長させるためには,骨を構成するミネラル(カルシウムやリン)が大量に必要になる。だが,食料からだけではそれをまかなえないため,ほかの骨から必要なミネラルを奪い,枝角に送る。その結果,アメリカアカシカは毎年この時期になると,骨粗鬆症になってしまう。発情期を迎え,メスをめぐって360キログラムものライバルと絶え間なく戦わなければならないまさにその時に,骨が弱く,もろくなってしまうのである。オスは,発情期が終わるまでの間,頻繁に激しい戦いを繰り返し,体重の四分の一を失う。こうして,もろい骨のまま,飢え,ぼろぼろになりながら,この季節をやり過ごす。そして冬になるまでのわずか数週間のうちに,組織や体力を回復していく。それができなければ,飢え死にするしかない。
ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.12-14
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