ネズミは,風景に溶け込んでいない個体を狙うフクロウに対抗するため,望みうる最高の擬装を行う方向へ進化を遂げた。理想的には,この迷彩服を選別するプロセスも,このネズミの場合と同じように展開されていくはずだった。ところが残念なことに,このプロセスに大量生産という政治的・経済的問題が紛れ込んだ。アメリカ陸軍は,複数の迷彩服を選んで環境により使い分けるということをせず,たった1つの迷彩服のみを選んだ。それがユニバーサル・カムフラージュ・パターン(UCP)である。
迷彩服を統一することで,生産や配布といった物流上の問題は解決できたかもしれない。しかしそのせいで兵士は,環境によってはかえって目立ってしまうことになった。ネズミは問題を解決するために,1種類だけではなく2種類の色を選択した。戦闘はさまざまな環境で起こる。1種類の迷彩服ですべての環境に溶け込むことなどできないのである。
間もなく,現場の兵士が不満を訴えるようになった。2009年になると,UCPがアフガニスタンではひどく役に立たないことが,誰の目にも明らかになった。そこで陸軍は急遽,新たな迷彩服の開発を行い,アフガニスタンに展開している兵士に対し,2010年から,“不朽の自由作戦カムフラージュ・パターン”(OCP)の迷彩服の支給を始めた。ちなみに特殊部隊の兵士は,こうした大量生産に絡む制約を全く受けていない。各環境に合致した多彩な迷彩服を採用し,作戦によって使い分けている。外国の軍隊も,迷彩模様を選択する際に,発見されやすいかどうか高度なテストを行っている。
ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.27-28
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