一卵性双生児と二卵性双生児の研究では,炭水化物(とりわけ甘いもの)への好みに遺伝的な要素が見出されている(0.4〜0.6の相関)。マウスでは,炭水化物に対する好みは,明らかに遺伝する。しかし,動物でも人間でも,体重が多様な集団内では,炭水化物に対する強い好みが見られるのは,肥満した個体ではなく,痩せた個体である。これは,一般の人々の予想とは逆かもしれない。たとえば,マウスを角砂糖が自由に食べられる状態におくと,痩せているマウスは,肥満マウスに比べ,砂糖からより多くのカロリーを摂取する。これはおそらく,痩せている個体のほうがすぐに使えるカロリーをより必要とするからである。一方,炭水化物の形でカロリーを摂りすぎてしまうと,余分な量は脂肪として蓄えられ,肥満のもとになる。
脂肪に対する遺伝的好みは,炭水化物ほどは強くはないが(人間では0.2〜0.5の相関),この場合,もっとも強い好みは,肥満の人に現れる。動物でも人間でも,「食物が肥満の原因」があるが,これは,食物中に占める脂肪のカロリーが相対的に高いこと(40%以上)に起因する。2人の人が,毎日同じ量のカロリーを摂取し,代謝が同じであっても,摂取形式によってカロリーの使い方に差が出てくる。脂肪を通じて摂取したカロリーは,すぐに体の組織に脂肪として蓄えられるのだ。このように,食物中の脂肪を好む遺伝的傾向は,「獲得性の肥満」----遺伝的BMIを越える肥満----になる大きな要因である。
ウィリアム・R・クラーク&マイケル・グルンスタイン 鈴木光太郎(訳) 遺伝子は私たちをどこまで支配しているか DNAから心の謎を解く 新曜社 pp.229
(Clark, W. R. & Grunstein, M. (2000). Are We Hardwired?: The Role of Genes in Human Behavior. New York: Oxford University Press.)
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