貴族の次男以下の男性に唯一残された選択肢は,財産を相続する立場にある女性と結婚することだった。当時は死産や幼児の死亡が多く,一家に男性の相続人が一切いないという状況がたびたび生まれた。そのような場合,女性が財産を相続したのである。こうした女性は,自分が望みさえすれば,財産をもたない男性と結婚しても差し支えなかった。そうなれば財産を持たない男性も,それを機に新たな家系を築くことができる。だが,相続権を持つ貴族の女性は,発情期のアフリカゾウのメスと同じくらい数が少ない。そこで,女性をめぐる熾烈な争いが起こった。
貴族の息子たちは,7歳になるころにはほかの騎士の臣下となり,戦闘の訓練を始めた。戦闘に行く師に付き従ったり,鎖かたびらや鎧をまとって走ったり馬に乗ったりするなど,鍛錬に明け暮れた。そして14歳になるまでにナイト爵に叙されると,集団を作って旅をし,自分の勇敢さを証明する機会を求めてさまよった。こうした男性の主たる目的が,女性の気を引くことにあったことは疑いの余地がない。ライバルの男性を打ち負かし,貴族の女性の好意を勝ち得ることが何より重要だった。だがあいにく,大半の男性は目的を果たすことができなかった。相続権のある女性の好意を勝ち得られる男性は少なく,一般的には,30年も40年もライバルと戦い,集団のトップに上り詰めた男性に限られていた。
ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.84-85
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