武器は大きくなるにつれ,負担にもなる。私の実験でも,きわめて長い角を身につけたオスは,目が発育不全を起こしていた。実験の末期には,角の長い個体を選別した個体群のオスは,角の短い個体を選別した個体群のオスより,目が30パーセント小さくなっていた。発育不全は,栄養の利用が制限されるために起こる。組織を成長させるには,エネルギーや原材料がいる。ある組織の成長に大量の資源を割り当ててしまえば,それだけほかの組織の成長に資源が行き渡らなくなる。
このように資源配分にはトレードオフの関係がある。これは,あらゆる生物の成長に見られるが,ほとんどの場合その効果は微々たるものである。しかし,特定の組織にあまりに多くの資源を費やすようになると,トレードオフの効果がはっきり現れる。武器は,軍拡競争に入ると急速に大きくなる。武器の成長に多くの資源が割かれれば,体の機能を大幅に損なうことにもなりかねない。昆虫の場合,それが体のほかの部分の発育不全となって現れる場合がある。
ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.142-143
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